現役送別演奏会、代替わり華やかに

早稲田大学グリークラブは2月19日、第67回送別演奏会を杉並公会堂で開いた。25人の卒団生と50人余りの現役生の合同ステージは、「Ride the Chariot」「君といつまでも」「アカシアの径」「雨」「斎太郎節」などのソロを卒団生が務め、見事な歌声を披露した。
卒団生ステージは「ぼくたちと練習系さんの1400日戦争」と題して、歴代の練習部門をユーモアたっぷりに振り返りながら、「夢の手ざわり」(田中達也作曲)より「わたり鳥」、「終わりのない歌」(上田真樹作曲)より「君のそばで会おう」、「夜明けから日暮れまで」(信長貴富作曲)など4年間の思い出の曲を演奏した。
現役生ステージは、日本ではあまり演奏されていないドイツの作曲家、シュロ-ネン(1965~)の男声合唱曲集を、田中渉さん(新4年)の指揮で演奏。4つの宗教曲を柔らかいハーモニーで歌い上げ、華やかに新体制のスタートを切った。
最後は卒団生・現役生合同で「遥かな友に」。新旧のトップテノール・パートリーダーによるゾリも交えて歌い納め、新OBと現役新体制のそれぞれの旅立ちを飾った。

寄稿:それぞれの終わりと始まり

熊崎 陽一(H22卒)

毎回現役の演奏会に行くと、パンフレットの最後のページを開いて、団員の名前と出身校を真っ先に調べる。自分自身が岐阜の田舎の高校出身ということもあり、地方出身者がどれほどいるのかという興味があるからだ。ひと昔前の早稲田は地方出身者が多いイメージがあったが、最近は1都3県の出身者が多く、めっきり地方色は薄れつつあるように感じる。
そうした中で、卒団生N君の宮崎県延岡市出身というのは光っていた。僕の同期にも宮崎県出身がいたが、はるばる九州から出てきたのは貴重な存在だった。
演奏会開始後、そのN君がいないことにすぐに気がついた。珍しい名前だったということもあるが、異様に熱く、草食系ともいわれる昨今の学生の中で珍しくガツガツ系だったため、強く印象に残っていた。どうしたのかと思っていると、卒団生ステージの曲間に「黒い遺影」となって出てきた。会場は大爆笑に包まれたが、僕自身は「本当にあの世に行ってしまったのか?」と驚いてしまった。というのも、少し前に後輩が若くして他界しているからだ。
休憩に入り、まず生存確認に走った。エントランスで居合わせた後輩に確かめると「本当に死んでいたら、ネタにできないですよ。ハハハ」。よくパソコン室に出没することがわかり、安心した。送別演奏会では失踪した団員が現れることが過去にもあり、黒縁の写真を掲げて、それを見たN君がステージに上がって来るという期待があったのかもしれない。
グリークラブを4年間続けると、色々なことに出会う。(いや卒業した後も色々なことが起こる。)4年たつと舞台に立つということへの度胸がつき、1年生の時は全然人前で振る舞えなかったものができるようになるのは面白い。
卒団生のステージは実に気の利いた面白みがあり、近年稀にみる「上手い年」と称された110年目のワセグリを引っ張ってきた学年の集大成にふさわしい演奏だった。彼らもまた濃い4年間を過ごしてきたに違いない。
残った卒団生も、残れなかったN君も、それぞれにこの4年間を振り返る日が来ることだろう。終わっていくことと始まること。旅立つ学年とこれから新たな年を歌う学年。111代目もまた濃く、印象深く忘れがたい友とともに歌いつないで行って欲しい。