響き石(210号)

歌手の谷村新司さんの代表曲「昴」は、石川啄木の「悲しき玩具」からヒントを得たといわれています。
呼吸すれば、胸の中にて鳴る音あり。凩よりもさびしきその音!
眼閉づれど 心にうかぶ何もなし。さびしくもまた 眼をあけるかな
「悲しき玩具」(桜出版)
▼これは「本歌取り」といって、著名な和歌や詩を取り入れ、新しい作品を生み出す技法です。啄木が関わった文芸誌も「スバル」。谷村さんは啄木の短歌から想像を広げ、星の命のはかなさを描く壮大なスケールの歌にしました。石原裕次郎の「錆びたナイフ」も啄木の影響を受けています。
▼啄木は西洋音楽をこよなく愛し、彼の日記や評論にはワーグナー、ハイドン、ヴェルディらの作曲家が登場します。故郷での代用教員時代に、バイオリンやオルガンを弾き、作詞した歌を生徒に歌わせています。
▼軍国主義が台頭する明治末期の暗い時代を生き、病と貧困の中で早世した啄木にとって、短歌とともに音楽が心の支えになっていたといえるでしょう。寄る辺なき現代社会を生きる我々も、音楽に癒され、希望を見いだすことが、これからもたくさんあるはずです。