2018現役定演 新時代への風を感じた

 小林昌司(H29卒)

平成最後の、時代の変わり目を感じさせる演奏会だった。
第66回定期演奏会は年の瀬の12月28日の金曜日。仕事納めの日にもかかわらず、すみだトリフォニーホールの大ホールは超満員となった。
2018年度の4年生はオンステ12名の少数精鋭。昨年度のオールワセグリ会で、柿沼郭OB会長をして「少なすぎる」と言わしめた代だ。筆者からみると、孫サブに当たる。
さて演奏会本番。始まりはエール、クラブソング。空気は張り詰めていながらも硬くなく、むしろ堂々として高揚感、期待感に満ちていた。上々の掴みだ。

1ステは学生指揮者のステージで、曲は多田武彦の男声合唱組曲「草野心平の詩から・第三」。大胆な表現かつ丁寧なハーモニーを両立させた稀有な演奏だったように思う。しかし日本語の裁きが甘く、そのために、どこか歌(Song)の要素が薄くなった。
ワセグリとタダタケは相性が悪いとよく言われるが、今回も例に漏れずといったところ。ハーモニーに寄せるとメロディーが破壊され、メロディーに寄せるとハーモニーが崩壊する。良くも悪くもバランスの取れない早稲田グリー、永遠の命題かもしれない。

2ステ「山頭火」委嘱初演=写真提供:フォトチョイス

2ステは委嘱作品。能管に尺八、2種類の箏、琵琶という編成と合唱の意欲的なステージ。作曲は早大理工学部教授の菅野由弘氏。詩は「分け入っても分け入っても青い山」で知られる種田山頭火による。散りばめられた言葉の断片の応酬と呼吸のような一定のゆらぎ、妖しい世界観を伴ってステージが存在していた。
3ステは大御所ボニージャックスとのコラボ。マイクのセッティングが悪かったためか、ボニーの語りと歌の言葉が聴きとれず、十分に楽しめなかった。
最終4ステ、作曲者荻久保和明指揮による男声合唱とピアノのための「炎える母」。実に38年ぶりの再演。スタミナ切れで声が無く、雰囲気押しな場面もあったが、濃い集中力で客を離さず、ライブとして充実度が非常に高かった。
演奏会をあえて評価するなら〝そつが無い〟の一言だろう。集客の充実度、演奏の質、選曲の方向性、ステージの細かい運びなど調和が良く取れていた。あるいはこの〝そつが無い〟という味気ない賛辞は、卒団する彼らが最も覆したかったことなのかもしれないが、実に彼ららしく、素晴らしかった。
今回、音の質感が大きく変化したように思う。特に1st、2ndテノールは別人のような仕上がり。音程の安定感に加え、艶があって情感が込もっている。世代交代だろうか。だとしたら、また期待が持てる。卒団2年目の筆者は驚くと同時に、この変わっていく団体を感慨深く思った。
世代が変わっていく。元号も変わる。果たして次の早稲田グリーはどこへ向かい、どうなっていくのか。
まだ見えない新時代。だが、風はもう吹きはじめている。