【ワセグリ人】鉄人、83歳でトライアスロン完走~稲田弘さん(S32卒)世界最高齢の快挙

 世界最高齢の83歳で過酷なトライアスロンレースを完走―。
稲田弘さん(S32卒)が、昨年10月に米国ハワイで開催されたアイアンマン世界選手権(水泳3.8キロ、自転車180キロ、マラソン42.195キロ)の80歳以上の部で優勝した。前人未踏の鉄人の素顔に迫った。

―60歳でNHKを退職してから体を鍛え始め、トライアスロンに挑戦したのは70歳からでした。
 「妻の介護のために退職した後、スポーツジムで水泳を始めました。学生時代から陸上、山登りをしていて、足腰には自信がありました。65歳のころ、水泳1.5キロ・ラン10キロの大会に出場した時、出場者の大半がトライアスリートで、自転車がかっこいいと思ったのがきっかけでした。『この年で始めていいものか』と悩みながら自転車を買い、妻の死後、本格的に練習を始めました」
「76歳で長崎県・五島で行われたアイアンマンに初参戦しました。しかし制限時間を切れず、途中で止められました。初めての挫折で、悔し涙を流しました」
「一人で練習していたのでは無理と感じて、千葉市・稲毛のトライアスロンクラブに入会しました。そこでコーチの指導を受け、見違えるように記録が伸びました。クラブには週5回通い、早朝水泳3キロ、自転車100キロ超、ランニング10~15キロのメニューをこなしています」

いなだ・ひろむ 1932年11月生まれ。千葉県八千代市在住。NHK時代は記者で、現在も週1回、NHKのラジオジャパンに勤務

―2012年のハワイでの世界選手権で初優勝しました。
「初の国際大会は78歳の時、米国フロリダの短縮コースで2位に入りました。翌年、韓国・済州島の大会でアイアンマンを初めて完走、世界選手権の出場資格を取りました。11年にハワイの世界選手権に挑みましたが、水泳で過呼吸を起こしてリタイア。初めての大会は必ず失敗しますね」
「12年のハワイ世界選手権に再挑戦して15時間38分25秒で完走し、80歳以上の部で日本人初の世界チャンピオンになりました」

―16年のハワイ選手権でも優勝し、世界最高齢記録を更新しました。
 「ハワイは平坦な道が少なく、風が強い難コースです。13年は睡眠不足で制限時間オーバー、14年は自転車がパンクするトラブルに遭いました。15年は16時間50分に短縮された制限時間を5秒オーバーし、完走扱いになりませんでした」
「その時の何度も倒れ、フラフラになってゴールした映像が世界中に配信され、多くの激励をいただきました。16年はそれがモチベーションになり、『完走しないと日本に戻れない』との思いで臨み、16時間49分12秒で完走しました」
「体は年々衰えますが、まだ行けるという気持ちが強いです。いくつになっても限界はないと思います。今年もハワイの選手権に出て、世界最高齢記録を塗り変えたいです」

表彰を受ける稲田さん

―グリーではセカンドで活躍し、卒業後も同期らでつくる「ローガンDX」で長く歌っていました。
 「ハワイの選手権の翌日、現地でトライアスロン仲間の結婚式に出席しました。『アメージング・グレース』を大声で歌ったら、神父の目に止まり、皆の前で歌わされました。まだまだ歌えると実感しました」
「実はもっと歌いたいんです。トライアスロンの練習でなかなか時間がとれませんが、コーラスの世界が忘れられず、またハーモニーの中に浸りたいという思いが強いです」
(杉野耕一 S59卒)