【近況・遠境】歌は国境・壁を越える 「合唱王国」南アで実感

 

ヨハネスブルグのライオン園で夫人と

 1987年に卒団して、商社勤務となりました。現在は知る人ぞ知る合唱王国・南アフリカのヨハネスブルグで、4カ所目の海外駐在を満喫しています。

 

合唱との出会いは30年程前。大好きな早大に入学できたのだから、在学4年間打ち込めるものに出逢いたいと考えていました。在団中は諸先輩方、合唱エリートの同期後輩の歌声についていていくだけで必死の素人でしたが、2年生夏の欧州演奏旅行での体験が商社勤務を目指すきっかけとなりました。

フランスやスイスの片田舎で「思いを込めた歌には、語学力よりも遥かに強い力で国境を越える力がある」と実感するに至りました。この感覚は、その後の国際ビジネスの場でも威力を発揮しています。

体育会系に偏りがちな総合商社に、ワセグリ同窓の数はあまり多くはありません。でもあの頃の舞台袖の暗闇での緊張感、一転、ステージの照明に包まれた時の高揚感、命懸けで飛ばす子音、遥友の消え行くライトの中でこらえる涙。楽譜が見えてくる合唱ではない、目指していたのは聴衆の予想を上回るライブ感や異次元の訴求力でした。そんな経験を活かせる職場の一つが商社だったのだろうと来し方を振り返りながら思い出しています。

ところで世界最恐地域として悪名高い南アフリカですが、実は温暖な気候と気さくな人々の良心に溢れた素晴らしい国です。

当地のステレンボッシュ大学合唱団は、今年も世界合唱団ランキングの第1位に輝きましたし、ドラケンスバーグ少年合唱団の名演奏に心打たれた人も少なくないはず。当地の国会中継。一人の議員が思いを込めて歌い始めると、アッという間に倍音が議場に響く大合唱が生まれる瞬間を何度耳にしたことでしょう。

多くの部族が共存し、使用言語も異なる国や地域で、気持ちを一つにするアフリカの歌声は、きっと合唱の原点なのだろうと感じます。歌は色々な壁を越えるのだ、と30年前の実感をいま改めて噛み締める幸せな毎日です。

佐藤和哉(S62卒、丸紅ヨハネスブルグ支店駐在)