作曲家の信長貴富氏の作品を実力派合唱団が競演する演奏会が6月2日、東京・王子の北とぴあ・さくらホールで開催された。「オール信長作品」の演奏会は最近増えているが、著名な指揮者とハイレベルの合唱団が一堂に会した、かつてない豪華なプログラム。信長氏が約20年にわたって発表した珠玉の作品を美しいハーモニーで歌い上げ、満席の1300人の聴衆を魅了した。
「静寂のスペクトラム」、合唱の新たな可能性切り開く
演奏会は、JCDA日本合唱指揮者協会が5月31日から6月2日まで開いた「第20回北とぴあ合唱フェスティバル」のクロージングコンサート「作曲家個展シリーズVol.8 信長貴富」として企画し、10団体が出演。多くの合唱団で歌われている「くちびるに歌を」「新しい歌」「うたをうたうとき」「いのりカンタービレ」、寺山修司の詩による6つのうた「思い出すために」などを演奏した。
ワセグリのOBらが参加している合唱団お江戸コラリアーず(おえコラ)は、山脇卓也さん(H10卒)の指揮で、男声合唱「若者たち 昭和歌謡に見る4つの群像」より「ヨイトマケの唄」を演奏。本家の美輪明宏に劣らぬ歌唱力と表現力、そして重厚なハーモニーで歌い上げ、大きな拍手を受けた。
休憩をはさんで、後半は東日本大震災後の福島で生まれた「夜明けから日暮れまで」(詩・和合亮一)、「群青」(曲・詞構成・小田美樹)を、公募のユース合唱団117人が信長氏の指揮で歌ってスタートした。
目玉のステージは、Combinir di Corista(コンビーニ・ディ・コリスタ)の混声合唱とピアノのための「静寂のスペクトラム」。信長氏が現代詩で新しい叙情性を描きながら、詩の行間や空白、「!」で視覚的に訴える「とてつもない秋」などの詩をデザイン的なアプローチで音に表現し、合唱の新しい可能性を切り開いた。2018年7月に同団が委嘱初演してから高い評価を受け、この日に全4曲が再演された。
最後の合同合唱は、出演団体の324人が混声合唱曲集「等圧線」(詩・覚和歌子)の終曲「リフレイン」を歌って締めくくった。