日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマ 指揮者 佐藤 拓(H15卒)
今年の年明けごろ、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマのもとへ1通のメッセージが届いた。送り主はMASKA(マスカ)というラトヴィアの合唱団で、7月に日本で行われるコンクールに参加するために東京を訪れる予定で、それに合わせてぜひガイスマと交流を持ちたい、という熱烈なラブコールであった。
すぐさま準備を始め、MASKAが出場する宝塚と東京のコンクールの間の7月24日に森下文化センターの多目的室を押さえ、東京で唯一となる彼らの演奏機会をアレンジした。歓迎演奏にはガイスマのほか、ガイスマ前指揮者でラトヴィアとの縁が深い山脇卓也さん(H10卒)が指揮する気鋭の女声合唱団「ぴゅあはーと」にも参加していただくことができた。
直前に行われた宝塚国際室内合唱コンクールで、MASKAは総合グランプリを獲得。にわかに彼らの来京が注目度を増した。コンサートに先立って、24日午後にはMASKAのコンミスで歌手・作曲家でもあるラウラ・イェーカブソネさん、指揮者のヤーニス・オゾルスさんによるコーラスワークショップも開催し、想定を上回る40名もの受講者が参加し、発声とウォームアップ、楽曲のレッスンをみっちりとしていただいた。
夜のコンサートは満席となり、ガイスマ、ぴゅあはーとの演奏に続き、MASKAが75分ほどのプログラムを演奏した。コンクールのために仕上げてきているのでその演奏レベルの高さは疑いないが、複雑な現代音楽も、ラトヴィア民謡を基にした作品でも、美しくブレンドした声と柔軟なフレージングが隅々まで行き渡り、また時には力強い地声発声も用いたりして、終始聞き手を魅了し続けた。
特に印象的だったのは、旧ソ連の大粛清時代に森に潜んで生き延びたパルチザンたちを歌った「二羽の鳩が飛ぶ」と、続いて歌われたグラスハープを伴奏とする「Stars」(エシェンヴァルズ作曲)のコンビネーションで、ラトヴィアの歴史を支え、築いてきた人々の魂が静かに天に昇華していくような、えもいわれぬ感動的な瞬間だった。
アンコールでの観客を巻き込んだ「上を向いて歩こう」の熱唱に続き、3団体合同でラトヴィアの合唱曲を3曲歌った。ラウラさんは「まるで東京で(同国で5年に1度開く)〝歌の祭典〟が再現されたみたい」と興奮気味に語っていた。
その数日後の東京国際合唱コンクールにおいて、MASKAは総合グランプリを獲得。見事、前人未到の2冠を達成した。