コロナ禍の中で開催した定期演奏会。入場時の検温やマスク着用での演奏など、今までと全く異なる厳しい状況下で定演を無事に開催できた現役の努力に、まずは最大限の賛辞を贈りたい。
2010年代に飛躍的に向上した演奏レベルは、コロナ禍で練習に制限があるのにも関わらず、高いクオリティを保持していた。特にトップテノールの音色が輝かしく、曲中に登場したソリストがいずれも非常に優れた歌い手であったことは特筆に値する。
今回の定演はステージ構成にも熱意が伝わってきた。学生指揮者が委嘱曲に挑む第1ステージ、合唱曲の金字塔「水のいのち」を演奏した第2ステージ、パーカッションが登場する大曲の「起点」に挑んだ第3ステージと、全てがメインステージと呼べるものばかりで、六連、四連や演奏旅行が中止となってしまい発表の場を失ってしまった現役生たちの、歌に懸ける熱意そのものといったステージ構成であった。
第1ステージは、作曲者の西下航平さん、ピアニストの村田雅之さん、学生指揮者の床坊太郎さんが同じ金沢泉丘高校出身という縁から実現したステージ。委嘱曲「焦点」は、時に密集した重苦しい和音、時に空疎な配列の音が現れ、内向的な苦しみとそこからの解放が交錯したような作品。組曲全体で詩のテキスト量が多い作品だったが、マスク越しであっても言葉が明瞭に客席に伝わってきたのは、現役の発声技術が磨かれていることの証左であろう。組曲の中で最も難解な2曲目「焦点」が定演2週間前に書き上がった(西下さん談)のにも関わらず、組曲の中で最も男声合唱らしい熱量に溢れた演奏に仕上がっていたのは見事であった。
キハラ良尚さんが指揮した第2ステージ「水のいのち」は、緊迫した第1ステージとは対照的に、水が雨から川を経て海に流れていくような開放感がある演奏であった。また、組曲全体を俯瞰してダイナミクスやテンポ感などが綿密に作られており、今の現役だからこそ実現できたインテリジェントな演奏だったといえる。金字塔の作品に新たな息吹が吹き込まれたといっても過言ではない。
第3ステージは、山脇卓也さん(H10卒)が現役の時以来23年ぶりとなる単独ステージの指揮で、難曲「起点」に挑んだ。パーカッションを擁する大編成の曲であるため、合唱の人数が54人では力負けするのではないかと思われたが、見事にその不安を裏切ってくれた。合唱が決して力任せにすることなく良い発声を保ち続けたことで、パーカッションの強烈な音に負けずに歌声が良く響いてきた。この組曲に懸ける現役と指揮の山脇さんの鬼気迫る闘志や表情が聴く者を圧倒した。特に3曲目の「放物線のさきに 歌う 若い宇宙の大きい 到達目標よ 姿を あらわせ」で現れる開放的な和音は、コロナ禍に負けまいとする現役の力強い雄叫びにも聞こえた。
演奏以外に目を向けると、これまでにはなかったコロナ対策で現場に大きな負荷が掛かっているように見えた。今後、ウィズ・コロナの中で演奏会を行っていくとすれば、入退場を2列ごとにする、より効率的な検温チェックといった動線の部分で、観客の滞在時間を短縮する工夫があってもよいかと思われる。
合唱界にとって未曾有の危機の中、1年生が9人も入団してくれたことは非常に嬉しい。また、動員で大苦戦していた現役を助けるべく、多くのOBが年末の忙しい最中に定演に足を運んだのも良かった。中には、現役で出演して以来約20年ぶりに定演に来た筆者の同期がおり、自分たちの現役当時と比べて変貌した今の現役の演奏に驚いたとコメントしていた。未曾有の危機にあるからこそ、今一度オールワセグリの結束力をもって、現役をサポートできればと思う。
最後に、幕間に行われた山脇さんと床坊さんのトークショーでの床坊さんのコメントを紹介したい。
「昨今の社会情勢を考えれば、合唱の演奏会を開くことに様々意見が出ると思う。だけど、私たちは歌いたいから演奏会を開いた」
終演後、感想コメントを寄せるために付けた「#ワセグリ定演68」Twitterのハッシュタグには、聴衆から賛辞のコメントが溢れ、現役の熱意は間違いなく聴衆に届いたと思われる。
濱野将廉(H14卒)