早稲田大学グリークラブの第69回定期演奏会が12月5日、鎌倉芸術館大ホールで開催されました。長引く新型コロナウイルス禍の中で迎えた2度目の定演。活動が制限されて限られた練習量で、50人余りのメンバーが魂の込もった最高のパフォーマンスを発揮して、聴衆、そして次代に勇気と希望を与える演奏会となりました。
第1ステージは学生指揮者の河野元就さん(4年)の指揮で、多田武彦作曲の男声合唱組曲「雨」。長い間多くの合唱団で愛唱されてきた曲を、安定したハーモニーで情感豊かに歌い上げました。
第2ステージは土田豊貴氏に委嘱した男声合唱とピアノのための「心の底で」を、指揮:相澤直人、ピアノ:渡辺研一郎で初演しました。東日本大震災から10年の節目を迎えたのに合わせて、詩人の谷川俊太郎氏が震災後に書いた4つの詩から構成。冒頭の「シヴァ」から、人が抗うことができない災厄を描き出しました。
「大地の叱責か 海の諫言か 天は無言 母なる星の厳しさに 心はおののく(中略)破壊と創造の シヴァ神は 人語では語らず 事実で教える」
その後、「言葉」「ありがとうの深度」「遠くへ」と、絶望の中でも希望を見いだしながらフィナーレを迎えました。
第3ステージは、やはり震災をモチーフにした信長貴富作曲の「Sämann (ゼーマン)―種を蒔く人―」、二群の男声合唱とピアノのための「虹の木」を、指揮:雨森文也、ピアノ:平林知子で演奏しました。
「ゼーマン」は荒廃と絶望の中でも種を蒔く人間の悲痛な叫び、生きようとする意志を表す難曲を熱唱。来場した信長先生も「すごく良かった」と絶賛されていました。
「虹の木」は福島出身の詩人、長田弘の詩による合唱曲で、福島の原風景、「人が帰っていき再び出会える場所」(信長氏)を描きながら、震災・原発事故からの復興への祈りを圧倒的なスケールで歌い上げました。演奏が終了して長い沈黙の後、大きな拍手が沸き起こりました。
そしてアンコールは雨森氏指揮で「くちびるに歌を」(信長貴富作曲)、相澤氏が19年定演の委嘱作品「修司の海」(三宅悠太作曲)より「かなしくなったときは」、河野さん指揮で「こころよ うたえ」(信長貴富作曲)を演奏。その後、ステージストームで「紺碧の空」「ひかる青雲」「斎太郎節」「早稲田の栄光」,の愛唱曲を歌って閉幕しました。