響き石(237号)

太宰治の小説「走れメロス」は、静岡県熱海市での体験が端緒ともいわれています。太宰は1936年、作家仲間の檀一雄と熱海で遊蕩し、宿や料理屋の代金が払えなくなりました。太宰は檀を〝人質〟に残して東京へ金策に行きますが、何日経っても帰ってきません。しびれを切らした檀と宿の主人が東京の井伏鱒二宅を訪ねると、太宰は井伏と将棋を指していました。怒る檀に太宰はこう言います。「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」
▼檀は後年、「小説 太宰治」で、「走れメロス」について「おそらく私達の熱海行が、少くもその重要な心情の発端になっていはしないかと考えた。あれを読む度に(中略)憤怒も、悔恨も、汚辱も清められ、軟らかい香気がふわりと私の醜い心の周辺を被覆するならわしだ」と綴りました。
▼ワセグリのOBなら誰でも、学生時代に合唱活動だけでなく、友情や恋愛、恥ずかしい体験があり、様々な〝事件・事故〟にも遭遇したはずです。それでも今となっては「憤怒も、悔恨も、汚辱も清められ」てはいないでしょうか。OB会も、そんな「軟らかい香気」をたたえる居場所であり続けたいと思います。