【演奏会レポート】現役第64回定期演奏会

新しいワセグリ体感 レセプションも隔世の感
 爽やかに晴れ上がった12月4日、府中の森芸術劇場どりーむホールでの現役の第64回定演に出かけた。私がこのホールで現役の演奏を聴くのは2回目で、最初は15年ほど前に小室哲哉氏とのジョイントコンサート。そして今回はOBも2週間後に同じホールでの日本点字図書館コンサートを控えていて、その下見の意味でも有益であった。
 演奏会については、既に本紙前号で武内一矢君(H21卒)が報告してくれた通りで、全体を通してバリエーションがあり、聴衆を飽きさせなかった。中でも委嘱初演の第4ステージ「夢の手ざわり」では、演奏後に客席にいた作詩の森山恵先生と作曲の田中達也先生がステージに呼ばれ、指揮をした相澤直人先生から、作詩者・作曲者が揃うのは珍しいとのお話があった。
 終演後、同じ建物で行われたレセプション(「打ち上げ」とは言わない様子)に、伊東一郎会長や、現役が夏合宿でお世話になっている石田観光農園の石田俊雄さんらとともに、OB会代表として出席した。
 自分が現役時の打ち上げは、部員全員が出席し、お客様も招待者以外は会費を払っていたように記憶する。下級生がお客様をさしおいて飲食して、上級生に叱られる光景も目にした。しかし今は、レセプションにいるのは上級生ばかりで、皆きちんとして、食事も持って来てくれる。お客様も招待者のみのようである。下級生は別会場で2次会を始めているらしい。レセプションひとつをとっても隔世の感を禁じえない。
 この日のピアノ伴奏を全て務めた前田勝則先生とお話ししたところ、先生もワセグリのバリエーションを楽しみながら弾いていたとのこと。「私が普段持っているワセグリのイメージは荻久保和明先生の『縄文』などに代表されるものですが、今日は全く違うワセグリでした」と微笑まれた。
佐々木豊(S59卒)
レセプションで先生方と
挑戦的な演奏、「見られている」を糧に
 今回の定期演奏会、全体として実に挑戦的な演奏会であったと思う。そのことにまず賛辞を送りたい。以下、思うところを述べる。
 三善晃、十分熟した演奏とは言えなかった感はあるが、三善らしさがそれなりに伝わってきた。三善の中でも難曲にあえて挑んだことを称えるべきであろう。
 木下杢太郎、学指揮による多田武彦としては出色の出来ではあるまいか。折々に伝わるタダタケらしさ、詞やメロディーに織り込まれた時代の香りをしっかり届けてくれる演奏だった。
 高嶋氏のステージ、想像していた通りの内容ではあるが、高嶋氏の要求に応え、ペーソスの利いた浪花風の「笑い」を巧みに演出できていたのではないか。
 田中氏への委嘱初演、解釈や評価が分かれるかもしれない。難しい曲に取り組んだことを嘉したい。筆者には、歌詞のメッセージがよく響いてきたようにも思うが、いま少しメリハリの効いた方がもっと伝わるかな、という印象もあった。かくして4ステージ、心地よい緊張感とともに、楽しく過ごすことができた。
 望むらくはホールを満員(に近い)くらいにまでお客様で埋めてほしかった。昨年よりは多かったとのことだが、2階は空席が多く、少々寂しい印象があった。
 思うに、ワセグリは多くの人に「見られて」いる。我々卒団生はもちろん、他の大学、アマチュアの合唱団、プロの音楽家、団員のご家族や友人、そしてワセグリを慈しんでくださる方々がたくさんいる。そうした方々への最高の発表の場、感謝の場が、この定期演奏会なのではないかと思う。
 「見られる」ことは、一面辛いことではあるが、楽しいことでもある。自らの表現を多くの方の前で発表できる場を持てるワセグリの諸君は、誠に果報者であろう。今回も多くの方々にご覧いただけたことをOBの端に連なる者として嬉しく思う。この演奏会を以て卒団される皆さんの尽力に謝意を述べるとともに、残る現役がさらにすばらしい演奏を聴かせてくれることを切望するものである。
石毛昭範(S62卒・拓殖大学教授)