早稲田大学グリークラブは12月28日、第68回定期演奏会を府中の森芸術劇場どりーむホールで開催した。50人余りのメンバーが意欲的な3ステージ構成のプログラムを、新型コロナウイルスの感染拡大で練習が制限された影響を感じさせないクオリティーで好演した。コロナ禍に翻弄された特別な1年の集大成となる舞台で、「歌の力」を示して多くの人に感動と勇気を与えた。
ワセグリの定演はメンバーが合唱用の「歌えるマスク」を着用し、約2000人収容のホールの客席数を半分に制限して開催。観客も健康状態の届け出や検温・消毒をして入場し、マスクを終始着用した。
第1ステージは若手作曲家、西下航平氏の委嘱作品「男声合唱とピアノのための『焦点』」を、学生指揮者の床坊太郎さん(4年)の指揮、村田雅之氏のピアノで初演した。29歳で早世した詩人、廣津里香の混沌の中にもエネルギーがみなぎり、死の影と生の輝きを対比させた詩を、繊細なハーモニーで表現した。
第2ステージは、東京混声合唱団などで活躍するキハラ良尚氏の指揮、鈴木慎崇氏のピアノによる男声合唱組曲「水のいのち」。ワセグリで歌い継がれてきた髙田三郎の名曲を、キハラ氏のエネルギッシュな指揮で、力強くみずみずしい音色を響かせた。
第3ステージは、今年が戦後75年の節目にあたるのを機に取り上げた「男声合唱・ピアノ・パーカッションのための『起点』」(作曲:信長貴富)。木島始の1945年の岡山大空襲と広島での敗戦の記憶、ホロコースト、宇宙開発競争をテーマにして、人類に警鐘を鳴らす3編の詩で構成されている。
現役グリーとは単独ステージでは初共演となる山脇卓也さん(H10卒)の指揮が情感豊かなハーモニーを引き出し、松元博志氏のピアノ、久米彩音、牧野美沙両氏によるマリンバ、太鼓、鐘などの多彩なパーカッションがドラマティックに盛り上げて、緊張感ある時空間と世界観を創り上げた。終曲の人類初の人工衛星を描いた「飛ぶものへの打電」では、現代を生きる人への呼びかけとなる「応答セヨ 応答セヨ」を繰り返しながらヒートアップして、フィナーレを迎えた。
演奏後、山脇さんは「もう一度、早稲田グリーに温かい拍手を送っていただきたい。かなりの努力と忍耐を重ねて、この演奏会にこぎ着けた」とあいさつ。学指揮の床坊さんは「今年は東京六連、東西四連の演奏会がなくなり、我々にとってはこれが唯一の演奏会になります。最後まで一致団結して、素晴らしい曲を歌い切れたことを嬉しく思います」と語った。
アンコールは山脇さんが「島唄」(信長貴富編曲)、キハラ氏が「若き日は燃えて」(上田真樹作曲)、床坊さんが「ゆめ」(西下航平作曲、委嘱初演)、「遥かな友に」を指揮。このあと恒例のステージストームで「紺碧の空」「ひかる青雲」「斎太郎節」「早稲田の栄光」を披露し、最後まで大きく温かい拍手に包まれて終演した。
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コロナ禍で合唱団の活動が大幅に制限された今年、東京六大学の男声合唱団の定演は、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団が昭和女子大学人見記念講堂で、完全招待制・オンライン有料配信の形式で開催。明治大学グリークラブは杉並公会堂で客席を制限して開き、法政大学アリオンコールは無観客でYouTube配信した。立教大学グリークラブと東京大学音楽部コールアカデミーは開催を中止した。
多くの合唱団が演奏機会を奪われるなかで、定演開催にこぎつけた現役グリーの努力と情熱に、改めて拍手を送りたい。(編集部)