菊池寛の短編小説「マスク」は、スペイン風邪が猛威をふるった100年前の日本の情景を現代に伝えています。主人公は「病気を怖れないで、伝染の危険を冒すなどと云うことは、それは野蛮人の勇気だよ」と常にマスクを着用し、妻や女中にも外出を禁止します。でも暖かくなったある日、マスクを外して歩いていると、黒いマスクをした男を見かけて憎悪するという倒錯が描かれています。
▼志賀直哉の小説「流行感冒」は、風邪の流行期に噓をついて芝居を見に行った女中を叱った主人公が、別の人から感染してしまい、献身的な世話をした女中を見直したという物語です。
▼新型コロナウイルスの猛威は今だ衰えず、今年も現役の演奏会が相次ぎ中止になるなど先の見えない状況が続いています。一向に改善されない医療現場、「やってる感」を演出しているだけの政治家に辟易している人も多いことでしょう。
▼感染症の影響は身体だけでなく、人の心にも忍び寄ります。不自由な日々の中で、不安や憤り、他者への不寛容と無縁で過ごせる人は少ないはずです。ワセグリのネットワークがそれらを少しでもやわらげるものになればと願っています。