山脇 卓也(H10卒、合唱指揮者)
私が本欄を担当させていただくようになって、早5回目の寄稿となりました。編集部より「今の音楽界に起こっている動きについて論評する欄を」ということで誌面をいただいているにもかかわらず、最近は大学合唱団の近況ばかり、という状況になっていることをお詫びいたします。しかし、今回もまず学生たちのことを書かねばならないほど状況は逼迫しています。
2021年度初め、大学は新型コロナウイルス禍の中で対面授業を継続するリスクとなる活動を制限するため、サークル主催での有観客イベント(つまり演奏会)の開催を禁止しました。緊急事態宣言が重なったこともあり、またしても東京六連や東西四連は中止に追い込まれました。現役のグリークラブは演奏だけでも記録に残そうと、四連の単独ステージで演奏する予定の作品をオンライン配信するという新たな挑戦をしました。(おそらく皆様もご覧いただいたことと思いますが、本当に素晴らしいクオリティーの演奏でしたね)
秋口になっても、大学は観客を入れての演奏会は認めない姿勢を取り続けました。「このままでは定期演奏会も無観客になってしまう」という危機感を抱いたグリークラブの学生たちは何度も学生生活課に対して直談判を行なったそうです。学内の合唱サークルとタッグを組んで要望書を提出し、学生生活課担当者と数度のやりとりを経て、ようやく勝ち取ったのが、先日の定期演奏会だったわけです。
グリークラブのメンバーが粘り強く交渉してくれたおかげで、学内の合唱サークルは有観客での演奏会開催が可能となり、一昨年は無観客開催だった混声合唱団や早大合唱団、演奏会を開催できなかった女声合唱団、コール・フリューゲルも全て有観客にて演奏会を開催することができたのです。
大袈裟ではなく、グリークラブが早稲田の合唱文化を守ったと思います。またこの交渉にあたっては、グリークラブ会長の長﨑潤一先生のご尽力があったと伺っています。この場をお借りして心から感謝申し上げます。
「文化を守るなんて、大袈裟な」と思われるかもしれません。グリーは4年生が中心となって運営していますのでまだ良いのですが、他の団体では3年生が主体となるところが多いのです。そういった団体では、来年度の幹事を担うのが「コロナ元年」の入学生になります。
もし、21年度に演奏会ができていなかったら、演奏会に出たことのない人が演奏会を一から作らなければならないのです。そして残念ながら、現実にそういう合唱団がたくさんあります。そういった意味でも、今回のグリークラブが起こしたアクションは尊いものだと思い、ご紹介させていただきました。
今年はどんな年になるでしょうか。私は現役の六連が開催されれば、3年目の正直で合同ステージを指揮する予定です。今年こそは、と思っているのですが…。そして、やはりコロナ禍で流れてしまった稲門グリークラブの「月光とピエロ」もリベンジの機会がありますように。