現役六連、新境地の演奏  委嘱初演「ブレイブ・ストーリー」壮大なファンタジー描く

 第66回東京六大学合唱連盟定期演奏会が5月6日、東京芸術劇場で開催された。現役の早稲田大学グリークラブは6校の最後に登場し、作曲家の川井憲次氏に委嘱した「男声合唱とピアノのための『ブレイブ・ストーリー』」を、中島龍之介さん(4年)の指揮で演奏して、新境地を開いた。(演奏会撮影:蓮見智彦=H29卒)
現役グリーの単独ステージ(東京芸術劇場)
 委嘱初演作品は、宮部みゆき氏の同名のファンタジー冒険小説をモチーフにした。主人公の少年ワタルは、父が母と自分を捨てて出て行った運命を変えてくれる女神に会うべく、現世の人間のエネルギーが創り出した「幻界(ビジョン)」へ旅立つ。少年は多くの出会いを重ね、数々の苦難を乗り越えて成長していく。これにNHK大河ドラマ「花燃ゆ」など多くの映画、TV、アニメの音楽を手がけた川井氏がみずみずしい息吹を吹き込んだ。
早稲田グリーは一部のメンバーが物語の登場人物の衣装を身に付け、ナレーションや舞台照明も駆使しながら、壮大なファンタジーの世界を表現。物語の底流に流れる人の生の切なさ、人々の営みの尊さを高らかに歌い上げた。
今回の六連では、法政大学アリオンコールの単独ステージが3年ぶりに復活。合同ステージは「永訣の朝」(作詩:宮沢賢治、作曲:西村朗)を雨森文也氏の指揮で演奏した。
現役グリーは6月25日(日)、第66回東西四大学合唱演奏会(すみだトリフォニーホール、15時30分開演)に臨み、松原千振氏の指揮で「北東欧のアラカルトステージ~若人と海~」を演奏する。
六連の合同演奏「永訣の朝」(東京芸術劇場)

深遠な人々の営み表現  川井先生・団員と物語紡ぐ

学生指揮者 中島龍之介(4年)

六連で演奏した「ブレイブ・ストーリー」は、劇伴音楽の川井憲次先生とワセグリの異色の組み合わせで未体験の音楽に挑戦し、グリーの歴史に新しい足跡を残せたと思っています。
川井先生との出会いは2007年。先生が作曲した押井守監督のラジオドラマ「ケルベロス鋼鉄の猟犬」の挿入歌を、TOKYOFM少年合唱団にいた私が歌ったのが縁の始まりです。以来、先生の駆け抜けるような疾走感のあるメロディー、物語に寄り添った旋律に魅せられ、いつか先生に作曲をお願いしたいと思っていました。
学指揮になった時から団員にその気持ちを伝えていましたが、題材は団員から募集しました。その中で「ブレイブ・ストーリー」が挙がりました。既存映画のファンタジーのイメージが強いからこそ、原作の奥深さをぜひ合唱曲にして表現したいと考えました。
昨年冬、合唱音楽は初めてだった川井先生に、こちらから題材や脚本を出して委嘱しました。今年2月にはほぼ完成し、最初は「やや暗めかな」と感じた曲調も、練習するにつれて馴染んできました。先生は「自由にやって構わないから」と、我々に幅広い裁量を与えてくださいました。通常の委嘱作品以上に、先生と団員が共同で創り上げたという思いが強いです。
本番直前、先生は舞台袖に来て、皆に「緊張しなくていいから。頑張って」と声をかけてくださいました。これが団員の心に響いて肩の力が抜け、深遠な人々の営みを表現できたと思います。本番では感極まって泣いた者もいました。
6月の東西四連では、松原千振先生の指揮で、本邦初演も含む北東欧の難曲に挑みます。送別演奏会の「Sea Chanties」で船出し、六連で勇気を得て、四連では〝大自然の猛威〟に向かっていきます。皆さまのご声援をお願いいたします。

 

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