【音楽リレー評論】多田先生の思い出~理論的に精密さ追求、飽くなき向上心


山脇卓也(H10卒、合唱指揮者)

音楽リレー評論 学生時代に味わった合唱の良さを伝えていきたい、男声合唱というやや狭い世界を拡げていきたいと思い、しつこく合唱の世界に身を置いています。幸い優れた仲間・先生方に恵まれ、合唱活動を続けています。少し自身の活動を踏まえながら思うところを綴らせていただきます。
作曲家の多田武彦先生が亡くなられました。我々合唱愛好家にとって本当に残念です。少し多田先生について書かせてください。
最初のご縁は1997年、東西四連の合同演奏の指揮者としてお招きしました。数多く演奏されている「富士山」を、作曲者はどんな思いで捉えているのか知りたくてお願いしました。先生は大変喜んでくださり、熱意あるレッスンを重ねてくださいました。
練習は驚くほど理論的で繊細。まず作品の構築性に関する4つの要素【リズム、メロディー、ハーモニー、楽式論】を徹底的に解説、指導されました。次に【響きの同一性】を要求されました。いかに耳をそばだててパート内の音を同調させるかを最後まで求められたことを覚えています。
日々男声合唱について考えておられる理論を実践してくださった貴重な機会でした。最近では当たり前に実施されていることですが、当時理論的にアンサンブルの精密さを求められたことは新鮮な驚きでした。
以来、私が卒業してからも私に時折、「最近ね、また新しいことがわかったんですよ」と電話してくださるようになりました。男声合唱を知り尽くした先生が「新しいことが…」と伝えようとする、その飽くなき向上心とご配慮に心震えたことを思い出します。
合唱コンクールに出場しても結果が芳しくない時期に「コンクールの結果なぞ気にするな」と励ましてくださいました。ある合唱誌に「いつまでもタダタケ作品ばかり演奏するのではなく、新しいレパートリーを開拓していかなくては…」と寄稿した時には、丁寧に諭してくださったことなど忘れられない言葉をたくさんいただきました。
2008年のワセグリ100周年記念演奏会の折も委嘱を快く引き受けてくださり、「帆船の子」を書いていただいたこと、15年の第64回四連の合同ステージで「達治と濤聲」を初演させていただいたことなど、話は尽きないのですが、これはまたの機会とさせていただきたいと思います。