石坂廬さん(S46卒)、翻訳本「マリアン・アンダースン」出版

石坂廬さんの新刊「マリアン・アンダースン」

音楽書を中心に地道な翻訳活動を続ける石坂廬さん(S46卒)が新刊「マリアン・アンダースン」(アルファベータブックス・2160円)を出版した。「音楽の友」1月号、毎日新聞(12月23日付)に書評が掲載され、高い評価を受けた。

今では知る人が少なくなったが、世界的指揮者のトスカニーニが「世紀の歌唱」と称えた不世出の黒人アルト歌手の名唱の数々をLPレコードなどで懐かしむ熱狂的ファンが多い。本書は長く彼女の伴奏を務めたピアニスト、コスティ・ヴェハーネンが、敬愛の念を込めてマリアンの生涯を回想し、彼女の人間像を温かく描いている。

毎日新聞と「音楽の友」に掲載された書評

筆者(徳田)が早稲田大学グリークラブに入って最初に歌ったのは黒人霊歌の数々だった。早稲田グリーの伝統的な得意ナンバーだけに演奏はいつも好評で、自分たちも鼻を高くしていた。その頃、アンダースンの黒人霊歌を聴く機会があって唖然とした記憶がある。心の叫びに魂を揺さぶられ、初めて黒人霊歌の真髄を知らされた。アフリカ大陸から黒人奴隷の労働力としてアメリカに連れてこられた家族が彼女のルーツだけに、彼女自身も言われなき差別を受けて育った。そんな彼女の黒人霊歌に感動し、しばし黙してしまった。

彼女は10余年にわたって日本を含む世界中で演奏旅行を行い、全ての会場で絶賛を博した。ただ母国アメリカでは肌の色から会場使用を拒否される屈辱的な扱いを受けることもあった。しかし1939年のイースターにリンカーン記念堂に集まった聴衆は7万5000人を超え、アメリカの首都を完全制覇した。この世界演奏旅行中の様々なエピソードが本書の主要部分となっている。

石坂さんはあとがきに「彼女は黒人クラシック歌手の先達として後進の為の道を切り開き、遂には人種の壁を乗り越え、後に続く黒人歌手のロールモデルとなった米国を代表すクラシック歌手である。今では彼女を知る日本人はとても少なくなったが、時の流れのままに忘れ去られてしまうには何としても惜しい歌手」と記している。

毎日新聞は音楽愛好家で知られる村上陽一郎東大名誉教授の「ピアニストが温かく捉えた実像」と題した書評を大きく掲載し、音楽の友は「本書は読書が2倍楽しめる、秀逸な書と言える。訳も言葉が美しい上に、行間に愛が滲んで胸を打つ」と石坂さんの翻訳を高く評価した。

写真も豊富に掲載されている本書を通読して、無性にマリアン・アンダースンが聴きたくなった。

徳田浩(S31卒)