東京混声合唱団定演 圧巻だった信長貴富氏委嘱「鉄道組曲」

東京混声合唱団の第252回定期演奏会が2月8日、東京文化会館小ホールで開催された。山田和樹先生の指揮で、M.シェーファー「自然の声」、F.プーランク「カンタータ『人間の顔』」などを演奏した。中でも圧巻だったのが、信長貴富氏の2019年度委嘱作品「鉄道組曲」。鉄道にまつわる古今の詩から作曲された歌は、往時のノスタルジーを呼び起こし、現代と共鳴させながら響く鮮烈なハーモニーで聴衆を魅了した。

アンコールに鉄道帽子をかぶって登場した山田和樹先生㊧=東混のツイッターから拝借しました

混声合唱とピアノのための「鉄道組曲」は、絵本「でんしゃは うたう」(三宮麻由子)の電車の擬音から始まり、宮沢賢治「岩手軽便鉄道の一月」、石川啄木「ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」、室生犀星「上野ステエシヨン」、吉野弘「夕焼け」と歌い継がれていく。「それぞれの時代の空気やレールが軋む音がよみがえってくる」(信長氏)珠玉の詩に、現代社会のせち辛さ、生きづらさを投影した旋律、ハーモニーが印象深く響く。

終曲の「恋の山手線」は戦後の人気落語家、四代目・柳亭痴楽の新作落語「綴り方狂室」が原典で、山手線の駅名を語呂合わせで歌詞に織り込んでいる。小林旭も同名のコミック・ソングをリリースしている。それは東京オリンピックが開催された1964年で、高度経済成長期の「東京讃歌」となった。それから56年後、再び五輪が巡ってくる2020年に発表された信長版「恋の山手線」は、圧倒的なスケール、華やかさの中にも、現代を生きる人々の物憂げで、ほろ苦い思いが内包されている。

歌は山手線の駅を〝一周〟した後、団員の「もう一周!」の掛け声とともに、今度は prestissimo(プレスティッシモ=きわめて速く)で最初からまた歌が始まった。電車のようにどんどん加速するテンポと合唱の見事な早口言葉で、会場のボルテージは一気に高まり、鮮やかなフィナーレへと突き進んだ。

信長貴富氏作曲の「鉄道組曲」を歌う東京混声合唱団=同

演奏が終わると、会場から割れんばかりの拍手が起こり、長い時間続いた。アンコールで、山田先生とピアニストの福間洸太朗氏は鉄道帽子をかぶって現れ、団員が客席に分け入って再び「上野ステエシヨン」「恋の山手線」を歌い、会場の興奮が最高潮のまま終演した。信長氏の新作は今後、多くの人に愛され、歌われそうな期待を感じさせた。