響き石(217号)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの人が不自由な生活、我慢を強いられていることと思います。とりわけ現役の早稲田大学グリークラブは、合唱活動だけでなく、学生生活も満足に送れない閉塞感にさいなまれていることでしょう。

▼コロナ禍で、音楽などの芸術文化は「不要不急」のものとされ、特に合唱は密閉・密集・密接の「3密」として忌避されるようになりました。多くの演奏会・イベントが中止され、劇場やホールも閉鎖されて、感染者や自粛ムードに従わない者を攻撃する風潮さえ生まれました。そして発令された「緊急事態宣言」。多くの国民が権限集中と私権の制限を望んだのです。

▼もちろん命は大事です。しかしコロナ禍で失われたのは、移動の自由、表現の自由、集まる自由など、私たちが戦後の憲法下で守ってきたものです。これらの自由を一時的にせよ、手放す痛みを自覚しながら過ごすことも必要でしょう。

▼新型コロナの収束はまだ見通せません。でも不安が広がる社会で、人の心を癒してくれるのが音楽です。命と自由をトレードオフするのではなく、どちらも大切に守る思いを持って夜明けを待ちたいと思います。