2017年6月29日(木)13:30開演で、神奈川県民ホール小ホールで開催された。
当日は天候にも恵まれ、客席430席に対してほぼ満席となる入りであった。
演奏会は組曲2曲を含むやや重いプログラムであったが、それぞれ個性の異なる指揮者により、団員の熱演の甲斐もあって大成功裏に終演できた。
第1ステージの「海鳥の詩」は、指揮:加藤治信(38年卒)、ピアノ:恩田佳奈(芸大非常勤講師)で演奏された。第1曲「オロロン鳥」の序奏が静かに始まり、断崖の岩の上で黙々と海を見るオロロン鳥、孤独な漂泊の思いと彼方への憧れを、ゆったりとしたテンポで歌い上げた。第2曲「エトピリカ」では霧の中をまっしぐらに飛ぶ不思議な鳥エトピリカの狂熱的なひたむきさ、一心不乱に神を求めて飛翔する姿を、4つのパートの隙間のないallegroの掛け合いを超えて、歌いきることが出来た。第3曲「海鵜」では、終始ゆったりと海のうねるようなピアノを底流として、大きく歌うことが出来た。第4曲「北の海鳥」は広々としたベースのパートソロから入り各声部に引き継がれ、速度変化の多い難曲である。生と死の揺れ動くさなか天国を目指して力一杯飛ぶ海鳥たちへの賛歌を、スケールの大きいピアノの好演に助けられフォルテッシモで歌い切り、聴衆と団員が一体となって感動を味わった瞬間は盛大で重い拍手に現れた。
続く第2ステージも男声合唱組曲で、「沙羅」を指揮:吉村幹郎、ピアノ:恩田佳奈で演奏された。この8曲からなる組曲は、国文学者の清水重道の詩によるもので、元々独唱歌曲集として信時潔により作曲されたものを木下保が男声合唱曲に編曲したものである。万葉から現代に至る日本的な香り豊かな気品あふれる作品を歌にしたもので、さながら日本画の展覧会で多様な手法による画に接した感があり、日本語の詩を日本語としてわかるように発声・発音するのは、声楽として難題であるが、細心の注意を払いきめ細かい演奏が出来るように練習を重ねた。また、文語調の歌詞は読み言葉で作られており、聴くだけでは意味がわかりずらいと考え、プログラムには別刷りで歌詞を挟み込み理解を深めていただくように努めた。
その結果、演奏後に来場者から「沙羅とはこんな曲だったんだ」あるいは「人生体験の現れているのが素晴らしかった」という賞賛ともとれる感想を頂いた。また、来場された声楽の専門家(NHK等の合唱コンクール審査員、講評員、専門大学教授等々を歴任)の先生からは、「総じて一昔前の男声合唱とは違う、柔らかで心温まる響きで曲の表現できる、県内では数少ない団体です、これからも大切にして下さい」という評をいただいた。
休憩を挟んでの第3、第4ステージは、一転して肩の凝らない耳になじみのある曲を楽しく聴いていただくステージ構成とした。
第3ステージは、吉村幹郎指揮による「グリークラブ愛唱歌」。グリークラブアルバムの中から、学生時代から親しんだ曲に、この時代の我が国には珍しい同声3部カノンの「ビール樽」を加えて、本日唯一のアカペラのステージとした。我々の「愛唱歌」というのは、日頃練習の後の酒食の場で、気持ちよく歌い上げているが、演奏会用の「正当の合唱作品」
として、音楽と詩の内容を再吟味して普段の「愛唱歌」とは違う楽曲として試みた。
なかなかその趣旨が浸透せず思い通りの演奏とはならなかったが、「時計台の鐘」や「ふるさと」は、「長い間何気なく歌ってきたが、ああいう曲だったんだ!新鮮に聴いた」という古いグリー仲間の声もあった。
第4ステージは、加藤治信指揮で「懐かしのミッチミラーサウンド」と銘打って、ミッチミラー合唱団のカバーである。演奏曲は、団員所蔵のCD,LP音源から選曲し、元当団ピアニストの関根美和子さんの採譜によって楽譜を作成して臨んだ。伴奏はオリジナルとは異なるが、ピアノにハーモニカを加えて趣向を凝らしてある。ハーモニカは津田佳世子さん(スズキ楽器製作所ハーモニカ振興会専任講師)にお願いした。
演奏は冒頭の、おなじみSing Alongが始まるや会場から自然発生的に手拍子が始まり、団員と会場が一体になって合唱を楽しもうとの雰囲気で会場が盛り上がった。曲間の指揮者のお話も軽妙で面白く、楽しいステージとなった。
アンコールに、ミッチミラーサウンドでNow Is The Hourを、そして最後に「遥かな友に」を来場者と一緒に合唱して終演となった。終演後のロビーは帰りのお客様で大混雑、まだ余韻冷めやらぬ友人・知人が語らう姿はこの日の演奏会の成功を表していた。
横浜中華街の中華レストランで行われた恒例の打上は、当日参加者も加わり、料理の追加手配に苦労するほどの盛況であった。柿沼郭OB会会長にも参加いただき、挨拶で「横浜稲門グリークラブのことは噂には聞いていたが、演奏を聴くのは今日が初めて。演奏は予想外(笑い)に良かった。特にピアノとハーモニカがよくて、もっと聴きたかった」との軽妙でユーモアタップリの話はさすがで会場は大爆笑であった。席は中華のテーブル席であったが、友人・知人が席を変わって歓談を重ね、あっという間にお開きの時刻となってしまった。
最後に、演奏会・打上に来て下さった皆様、演奏会を支えて下さった応援スタッフの皆様、それに現役学生諸君、ありがとうございました。
(北村勝昭・S38卒)