本紙2017年5月20日号の「ワセグリ人」で紹介した新潟市の高校教諭、栗川治さん(S57卒)が18年12月9日、新潟市民芸術文化会館で開催した「第19回新潟第九コンサート2018」に合唱で出演した。
栗川さんは18年7月、視覚障害を抱えながらの教員生活や社会活動を長年支えてくれた妻の清美さんを亡くした。「新潟第九」には07年、グリーの先輩の故宮尾益治さん(S37卒)のサポートを受けてオンステして以来、毎年出演している。
以下、栗川さんのブログから抜粋させていただく。
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私は今夏、妻を亡くし、「歓喜の歌」をどう歌ったらよいか、気持ちが定まらないまま本番当日を迎えた。本番前最後の総練習で、指揮者の伊藤翔先生がオケに対し、「最後のprestissimo(とても速く)の直前のsubito piano(突然の弱音)の部分は合唱が‘Elysium’と歌っているところで、ただ弱いのでなく、強い思いを込めての表現でなければならない」と説明し、何度もやり直しをした。その時、 私に天啓のようなイメージの扉が開いた。‘Elysium’=天国、楽園。「そうだ!天国の清美さんに向かって歌おう」と私の心は決まり、涙が流れ出た。
(本番で)天の門が御開帳され、生と死の世界を超えた根源的ないのちの歓喜が沸きあふれる。私の顔面は、汗か唾か涙か、ぐじょぐじょである。ブラヴォーと拍手が炸裂し、聴衆と演奏者が一体となる。
終演後、聞くところによると、合唱団は最年少11歳のボーイソプラノから、最高齢は米寿88歳の男性まで。私の他にも初参加の視覚障害女性がいたり、がん闘病中の女性が姉と主治医に付き添われて車いすで参加したりと、まさに多様な市民が包擁しあいながら、ベートーヴェンの「いのちの讃歌」を歌った。
激動と苦難の2018年の締めくくりに、素晴らしい演奏ができ、そこに天国の妻とともに参加できたことを喜ばねばならない。
(編集部追記=栗川さんは12月28日の現役定演に駆けつけてくれました。「圧倒的な迫力の初演を体験した者として、38年ぶりの再演を聞き逃すわけにはいかなかった。(演奏は)壮絶な情景と心情を、時空を超えて現出させた。私は心打たれ、感動した。死者を思い、涙が流れた」と話していました)