【ワセグリ第69回定演に向けて】禍越えて 次代へ種蒔く

早稲田大学グリークラブは12月5日(日)、第69回定期演奏会を鎌倉芸術館大ホール(16:30開演、最寄り駅・JR大船駅)で開催します。新型コロナウイルス禍の中で迎える2度目の定期演奏会。ワセグリはどのように過ごし、定演で何を表現しようとしているのか。2021年度学生指揮者の河野元就さん(4年)に聞きました。

第69回定期演奏会の会場となる鎌倉芸術館大ホール
2021年度学生指揮者 河野元就(4年)

――早稲田実業学校出身で、ワセグリでは10年ぶりの部員だそうですね。
「合唱を始めたきっかけは5つ上の兄です。兄は慶應志木高から慶應ワグネルに入り、トップテノールのパートリーダーを務めました。私は早実の音楽部合唱班で混声合唱をやっていました。佐藤洋人先生の指導を受けて東京都合唱コンクールで金賞を受賞し、ミュージカルにも挑戦したのが思い出深いです。でも一番やりたかったのが男声合唱で、ワセグリに入りました」
—―長引くコロナ禍で、クラブ運営の苦労は。
「昨年はサブとして新歓や新人練習を担当し、オンラインでもやり切った感があり、結構楽しかったです。でもチーフの4年生になった今年は、コロナ禍も2年目に入り、緊急事態宣言や大学の要請により練習ができない期間が長く続いて、ワセグリから活気がなくなっていきました。演奏会が徐々に再開されていく一方で、我々の送別演奏会や六連、四連は中止となり、学生団体だけが活動できないという不条理も感じました」
「そんな状況下で、部員がよく残ってくれ、新人も2年生を含めて約20人入ってくれました。やはり昨年、多くの困難の中で観客を入れて定演を開いたことが大きかったと感じています。我々も何とか定演を開催して、次につなげていきたいです」
――12月の定演のプログラムは。
「私が指揮する第1ステージの男声合唱組曲『雨』では、静かな日常を描きます。次の土田豊貴先生の委嘱初演ステージでは、逃れられない災害から日常が壊れていきます」
「委嘱作品は、今年で10年が経過した東日本大震災、長引くコロナ禍による社会の閉塞感を反映して、大自然や災厄に対する人間の無力を圧倒的なスケールで訴えかけるものになっています」
「私たち練習系は昨年、土田先生が作曲した『立ちつくす』を聴いて、ヒトの力では抗うことのできない『圧倒的な現実』と、その中で必死にもがく人々の『一抹の希望』というスケールの大きな世界感を描ける方だと確信して委嘱しました」
「第3ステージは、やはり震災をモチーフにした信長貴富先生の『Sämann (ゼーマン)ー種を蒔く人ー』と『虹の木』を演奏します。荒廃と絶望の中でも種を蒔き、やがて木になって、希望と再生につながっていくのを表現したいです」
「今年の定演は、私としては『萌芽の演奏会』を目指していきます。昨年はコロナ禍の大波に襲われたワセグリという土地を113代の先輩たちとともに耕し、土壌を整えた時期ととらえています。そして今年はワセグリに種を蒔き、次代を彩る若草が萌えるのを見届けたいと思っています」

構成・杉野耕一(S59卒)