響き石(233号)

戦後日本を代表する知識人、福田恆存(1912~94)は「日本の近代化がうまくいかないのは、言葉の使い方をみんないい加減にしているからだ」と述懐しています。(「福田恆存の言葉」=文春新書)
▼明治期の西洋化にあたって、「民主主義」「平和」「人権」など多くの〝ネオ漢語〟が生まれました。これらを福田は「五感に訴えることができない抽象的な言葉。(各人が)違った理解をしていても、全然わからない。誤解や混乱も起きていて、反省期、調整期にそろそろ入らなければならない」と指摘しています。
▼かねて「民主主義」が叫ばれながら、世界中で政治の劣化が止まりません。ウクライナと中東の戦争で「平和」の意味が大きく揺らぎました。民主主義も平和も、もはや従来の理解では全く通用しない状況に陥っています。福田の没後30年を経ても、彼の鳴らした警鐘は生き続けています。
▼我々が合唱をするとき、歌詞の意味を考え、それを皆で共有ながら、頭だけでなく身体で覚え込もうとします。その努力は聴衆にも必ず伝わります。合唱の活動こそ、言葉という道具の使い方を問い直す営みといえるのかもしれません。