【岡村喬生さんの思い出】1988年定演~圧倒的な歌唱力にタジタジ

早武 淳(H01卒)

「練習中、本番中の指揮者の指示は絶対なんだよ。君たちは彼に従わなくちゃいけないんだ!」
1988年の第36回定期演奏会の第3ステージに取り上げたのは、岡村喬生先生をソリストにお迎えしての山田耕筰歌曲集。「からたちの花」をはじめ、日本人なら誰しも耳に馴染んでいる曲ばかり。
そこそこに仕上げることは容易なのですが、この手の演目を精緻に完成させるのは実は難易度が高いんですよね。練習内容も単調になりがちで、歌い手が飽きている感じがひしひしと伝わってきたころに岡村先生から冒頭の言葉が発せられた訳です。
内心、「助かった」と思ったことを覚えています。楽譜上は簡単だからこそ演奏としての作りこみには限界があり、つまるところ個々人のトーンをそろえて歌いこんでいくくらいしかやることが残っていませんでしたので。

1988年定演の山田耕筰歌曲集

岡村先生のこの言葉をきっかけに、練習が思った以上にスムーズに流れ始め、本番での演奏に足るレベルになっていったように思います。
しかし、いざ本番が始まってみると、さすがは大オペラ歌手。圧倒的な歌唱力に加えて自由自在な身振り手振り! 当然ながらピアノも歌も岡村先生の「実質的な指揮」に引き込まれて行きます。そんな状態を私ごときがコントロールできるはずありません。かくして学生指揮者は存在しないも同然となり、「岡村喬生と仲間たち」ステージと化したのでありました。
「先生、言ってたこととやってることが違いますよ」と思ったものの、とてもご本人に申し上げる勇気はありませんでした(笑)。今となっては貴重な良い思い出です。岡村先生のご冥福を心よりお祈りいたします。