今年、没後30年を迎えた松本清張の小説は、時代を超えて人々の心をとらえ続けています。「点と線」「ゼロの焦点」などで描かれた、日陰でどこか屈折した人間の哀しみ、愛と憎しみ、社会への怒りは今も色あせることはありません。
▼原作は読んでいなくても、映画やドラマで知っている人も多いでしょう。清張は映像化にあたり、脚本演出の大胆な変更を許し、原作を超えて輝きを放った作品も少なくありません。
▼「砂の器」は遍路姿の親子の放浪を思い浮かべる人が多いと思いますが、原作にはほんの数行しか書かれていません。「疑惑」は保険金殺人を疑われた女性の冤罪が明らかになり、毒婦キャンペーンを張った新聞記者が破滅する物語です。でも原作には、別の恐ろしい結末が書かれています。
▼ワセグリOB会は創立70周年演奏会に向け「月光とピエロ」「水のいのち」「さすらう若人の歌」を練習しています。過去に歌ったことのある人は多いでしょうが、この演奏会がその追体験に終わってはもったいないと思います。今回集まったメンバーにより、各曲の新たな地平が開かれ、新しいドラマが生まれることを期待したいものです。