三善晃の反戦三部作、山田和樹先生が渾身の指揮

ワセグリの現役・OBがお世話になった指揮者の山田和樹先生が5月12日、東京都交響楽団定期演奏会(東京文化会館大ホール)で、三善晃作曲の反戦三部作を指揮しました。100数十人の混声合唱と大編成のオーケストラが、無数の死者の叫び、鎮魂と反戦の思いを壮絶な音響で描き出し、聴衆の心を揺さぶる演奏になりました。

 

反戦三部作は、特攻隊員の遺書や反戦詩を取り入れた「レクイエム」(1972年)、宗左近の詩集「縄文」をテキストとした「詩篇」(1979年)、童声合唱による「響紋」(1984年)。三善の壮絶な戦争体験から生まれた激烈な音響と声なき声の叫びで訴える3作品の一挙演奏は史上2回目。合唱は東京混声合唱団、武蔵野音楽大学合唱団、東京少年少女合唱隊が出演しました。

「レクイエム」は「誰がドブ鼠のようにかくれたいか!」の叫びから始まり、混声合唱の歌声や叫びは、時にオーケストラの爆音に揉みしだかれ、かき消されながらも、凄まじい音響空間を創り上げました。演奏終了後、10秒ほどの沈黙があり、やがて大きな拍手が沸き起こりました。

「詩篇」は、ワセグリが荻久保和明氏作曲の「縄文」シリーズでも歌った詩が多く採用されています。《滝壺舞踏》の「きみたち死んだ おれたち生きた」で合唱とオケが激しくせめぎ合い、やがて「犠牲のくじ引き儀式」(三善)として、「花いちもんめ」の旋律が浮き上がりました。そして《波の墓》の「ゆれあっている ゆられあっている」「海のなかの暁 暁のなかの海」「水に血潮を 血潮に水を」と鎮魂の思いを歌い上げました。

「響紋」は童唄の「かごめ かごめ」から始まり、歌声は次第に重ねられて紋様を広げ、波となってうねりを上げて、「うしろのしょうめん だぁれ」で締めくくりました。

演奏会は当初、2020年5月に開催する予定でしたが、コロナ禍のため中止。今回、「三善晃生誕90年・没後10年記念」として仕切り直し、3年越しで演奏が実現しました。

終演後にロビーで行われた山田和樹先生のアフタートーク

山田先生は終演後、ホールのロビーでアフタートークを行い、「ドラゴンボールの“元気玉”のように、一人ひとりのパワーをいただかないと出来なかった本番でした」と振り返りました。「三善先生は日本から日本独自のものを発信しなければならないとの強い思いがありました。きょう日本人作品をやって満席になり、渾身の演奏を繰り広げて、ちょっと一歩、半歩くらいは先に進めたのではないか。こういうことをやり続けていかなければいけないなと(思った)。僕も“すき間産業”と言われても、細々とやり続けようと思っています」と語りました。